あがり症~「練習と本番と違ってしまう」~だからこそふだんの何気ないところから見直してみよう

(音楽家の方の話をもとに書いていますが、音楽家以外のパフォーマンスをする方や、人前で話をするときなどにもぜひ応用してみてください)。

音楽家などの方から、コンサート、あるいはオーディションなどの本番であがってしまって普段どおりに演奏できない、と相談されることがよくあります。「ふだんはそんなことは起こらないのに、手がふるえたり、動かなくなったりする」と。

そんなときどうしたらいいか?

本番のそのときに対処できるアイデアも、ありますが、やはりその前に根本的には、「ふだん」のことを見直すことが大事なんです。
「ふだんは問題なく弾ける」と言われる、それは本当だと思うのだけれど、実はふだんも、問題とは言えない程度だけど、ちょっとした無理が起こっていたりする。でも、それに気づかなかったり、気づいたとしても「この程度ならまあ大丈夫だろう」と、そこは無視してそのまま練習を続けてきたかもしれません。でも、ふだんなら問題がないその人の癖や傾向が、本番になってアドレナリンが出てきたときに、もっと強調されて現われてくる。そしてそれが、パフォーマンスを邪魔することになってしまうのです。

それを変えたい、見直したいと思うなら、やはり、「ふだん」のことを見てみることからはじめるのが、一見遠回りのように聞こえるかもしれないけど、じつは早道なのです。

ほとんどの楽器は、指を動かしたり腕を動かしたりして弾くので、演奏家は、指の動きについてはすごく意識が高い方が多いです。その一方で、胴体とか、足とか、首とかのことは意識したことがないという方が多いようです。また、腕の中でも、指先、そして肩については意識していても、ひじについては意識したことがないという方が多くいらっしゃいます。管楽器奏者では、唇のこと、手、そして呼吸のための腹筋などについては意識しているけれど、腰から下のことは意識したことがないという方が多くいらっしゃるようです。

さらに、たとえば自分の指の動きに「問題がある」「改善したい点がある」と思っていると、なおさら指ばかり意識するようになることが多いと思います。しかし、意識がそこだけに集中して、ほかのところを無視してしまうことが、問題解決のためには逆効果になってしまっていることがよくあるのです。改善したい点は気になるでしょうが、だからこそ、あえて、「問題」から、むしろいったん離れてみてみましょう。そして体全体、自分全体に戻ってみましょう。今まで意識が行っていなかったところに目を向けてみましょう。それが、じつは問題解決の早道です。

演奏というのは、自分という体全体を使ってするものです。

自分という体全体を使って楽器を演奏しているときに、向けている意識が、からだのある一部分だけに偏っていると、バランスをなくし、体の安定感をなくしてしまいます。そして無理やりバランスをとるために体を固めざるを得なくなってしまうのです。体の一部分だけを固めて、それ以外の部分と切り離されているような状態が長く続くと、だんだんと苦しくなったり、体のどこかに痛みが生じたりしやすくなります。

パフォーマンスに影響が出たり、痛みやつらさが生じたりするまで無理を続けず、まだ問題になっていないくらいのわずかな傾向であるうちに、演奏のときの体の使い方の習慣を変えてみましょう。

もうすでに痛みやつらさが出ている場合は、痛みやつらさが出る場面・状況からいったん離れて、「こういうときならなんともない」と思えるような場面・状況で、体についての意識の使い方を見直してみましょう。

人前でふだん通りに弾けないという方は、ふだんの練習のときの体の使い方を見直してみましょう。

「本番前でもう時間がない」という人でも、練習時間のなかで5分か10分でも、ふだんの体の使い方に目を向ける時間を持つと、変わります。

最初に楽器を持つとき、楽器に向かうときの意識がちょっと変わるだけでも、大きな変化につながることがあります。

私のアレクサンダー・テクニークのレッスンではよく、以下のようなことから見ていきます。

・立つこと・座ること・座るまでの動き
・腕をあげる、おろす
・楽器に手を持っていく/手に持った楽器を自分に近づけていく

これらの、なんてことのない動作は、ほとんどの人が無意識でやっていると思います。でも、そこをあらためて丁寧に見てみると、「こんなところで必要以上の力を入れていたんだ。だけどこんなに軽やかに動かすこともできるんだ!」というような新鮮な発見があることが多いのです。

手だけ、足だけで動くのではなく、頭と背骨、そして骨盤--体のしなやかな中心軸に意識を向けつつ動く、というのが、コツのひとつです。
体の中心軸に意識があると、手足の力は少なくて済むことに気づくことでしょう。

また、たとえば肩をあげて自分を支えるというような必要性がなくなって、自然に肩が適切なところにきて、首の力が抜けたりすることも多いです。

そこで、自分が簡単に弾けるフレーズを弾いてみます。
今まで以上に少ない力で、軽やかな体の使い方で演奏できることに驚くかもしれません。その分、難しいことをやるための余力が生まれます。

また、体の中心に意識を持って演奏することで、出てくる音も変わります。より、音がよく鳴るようになって驚かれる方が多いです。
よい演奏というのは、手先にあるのではなく、自分の中心からはじまるのです。自分の中心と、楽器とがつながると、よりよい共鳴が生まれ、よりよい音が出てきます。

そして苦手なところを弾いてみて、何が起こるか見てみます。その人にとって、どこがクリティカル(=その人にとって決定的な瞬間や状況)かがわかると、どう方向づけ直すことができるか、アイデア/対処方法が見えてきます。それは、お一人お一人違うので、お会いして立ちあいながらライブですすめるレッスンのよさがそこにあります。

そのような体験から得た気づきを練習や本番に取り入れた方々から、次のコンサートや発表会のとき「緊張の度合が減ったみたい」「緊張はしたけどちゃんと弾けた」というような、新しい体験ができたという報告を多くいただきます。

「ふだん」のことと、人前に立ったときなどの本番の状況のことと、両方を見てみるのが、あがり症や、緊張への対処のワークとして有意義だと私は考えています。

2017.2記 2021.9改訂

あがり症(続き)~緊張する自分を否定せず、でも体は固めなくてすむために

あがり症(3)~緊張を味方につけて、自分が表現したい世界を描く

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